空色硯 sorairo-suzuri

アクセスカウンタ

zoom RSS 夏色四片 第31話

<<   作成日時 : 2007/10/03 00:31   >>

トラックバック 0 / コメント 0

リンディが学院に戻ったのは、およそ一週間後のことである。

何故か――休暇を貰ったはずの、シエスタの姿もあった。
二人の間に何があったのかは知らないが、どうやら片時も離れたくないらしい。
甲斐甲斐しく世話をする様子は、実に嬉しそうだ。
「で、聞いてもいいわけ?」
「えっと、それがね。言えない事ばかりだったのよ。……どうしましょう?」
あはは、と困ったように笑うリンディ。

一応、シエスタの祖父がリンディの知人であったかもしれない事。
彼の遺産によって助かった事。
その為に、シエスタが命懸けで頑張った事は聞き出せた。

「充分な説明になってるとは思うけど……それでも言えないことが、別にあるわけね」
ルイズは盛大な溜息を吐くと、座った目でリンディを睨んだ。
「つまりシエスタは親戚ってこと? しかも命の恩人、と」
「そうなる、かな?」
「はい!」
嬉しそうに頷くシエスタ。
未だ包帯姿が痛々しいのに、随分と明るくなった印象を受ける。
「そういう事なら……主人のわたしにも、やらなきゃいけない事があるのよね」
「はい?」
戸惑う彼女に、ルイズは悪戯っぽい笑みで頷いた。



「あ、あの、ルイズ様? わたしそんな」
抗議、と言うより悲鳴に近い声が響く。
半泣きの彼女の両腕は、半ば連行されるかのように捕らわれていた。
畏れ多くも貴族たちに、である。
「いいから、さっさと治療してきてもらいなさい。――頼むわよ?」
「わかってるわよー」
ルイズが手を振ると、貴族たち――キュルケと数名の生徒が、楽しそうに返事した。
リンディが戻ったと聞いて顔を出した彼女の呼び掛けに、水系統のメイジ数人が集まったのである。

本来、一平民に割いていい労力ではないのかもしれないが、
「使い魔を助けてもらったのだから、その分きっちりお返しするって事でしょ?」
キュルケは、シエスタを横目で眺めた。
恩義に報いる為なら、例え平民相手でも問題無し、のはず。
この子の慌てている姿も、可愛くて面白いし。
治療に必要な費用は、どうせヴァリエール経由で王室が出すのだ。だったら、いっそ景気良くいってみよう。

「でもっ! リ、リンディさん!」
縋るような眼差しの彼女。
高価な秘薬を用いた治療をされるとなると、気後れするのも無理はない。
いや。やたら楽しそうなキュルケの様子に、不安になったのかもしれない。
残念ながら。
助けを求められたリンディも――にこにこと微笑んで手を振っただけで。
「……そんなあ」
がっくりと肩を落としたシエスタは、扉の外へ力無く引き摺られていった。


「それで?」
見送ったリンディは、机の前のルイズに向き直った。
人払いをしたからには、それなりの話があるはずである。

「話が早いわね。これなんだけど」
と、彼女は一通の手紙を差し出した。署名には、『ある船乗りより』とだけ記されている。
視線で了承を得てから、封を切られた中身を引っ張り出す。

「――なるほど。元気そうで良かった」
暫く黙読していた彼女は、やがて納得したように呟いた。
「中には、姫殿下宛の手紙が別に入っていたの。当然そっちは読んでないけど、こっちの内容も内容だし」
「事有る時は花壇の世話を頼む、ね」
途中で開封される可能性を考慮したのか、文面はやや婉曲な言い回しが中心となっていた。
もっとも、分かる者には容易に理解出来る内容ではあるが。

「リンディが帰ってくる少し前、姫殿下に届けに行ったのよ」
「どうだった? 喜んでくれた?」
「それがねえ」
愛する者の生存が明白になったのだ。喜ぶのは当然だろう。
もちろん、手紙自体の不穏な内容も気になるはずだ。
それでも、素直に感謝と喜びの表情を浮かべたアンリエッタに、ルイズも満足だった。
だが。
その笑顔も、瞬く間に萎んでしまったのである。

「やっぱり、アルビオンの事で?」
「違うのよ。姫殿下って、結婚する事になったじゃない」
最初は、理不尽だと思ったし、同情もしたのだが――ウェールズやリンディの話を聞く内に理解出来た事がある。
例えどんな事であれ、本人が決めた事を身勝手に評価してはならない。
自力で伸びる草木は、支える程度が精々だ。もし折るのであれば、覚悟と資格が要る。
と、理解したからこそ、何も言うまいと思っていたのに。

「嫌になっちゃったとか?」
「国を守る為にって納得してたはずなんだけど、空賊の頭領さんが頑張ってるから」
「あー……それは分からなくもないかな」
いくら責任有る立場とは言っても、若い女性なのだ。

国は滅び、公に生を知る者はおらず、様々な意味で自由な立場を得た空賊。
更には、未だ心が繋がっている男性だ。
意に添わぬ結婚を控え、心が揺れない方がどうかしている。……と思われる。
マリッジブルーの一言では済まされないが。

「とにかく、今はアルビオンの方が大事でしょ。それで」
裏切ってしまったような気分を抱えて落ち込む王女を、何とか説き伏せ、手紙の内容に意識を向けさせた。
深刻な事態を理解したアンリエッタも、ようやく気持ちを切り替える。
何しろ、国が滅ぶかどうかの瀬戸際なのだ。
二人で話し合ってみたが、所詮は政治の素人。対応策が思い浮かぶはずもない。
結局、マザリーニ枢機卿と相談するしか手が無かった。


情報の真偽について、枢機卿はそれほど疑義を唱えなかった。彼は理想家ではないからである。
内容は荒唐無稽とは言えず、潜り込ませておいた衛士隊長に要人暗殺を命じていたという時点で、アルビオンの底意は明らかだ。
手段を選ばず。――そういう事だろう。
更には、情報の出所自体が信用に値する。
もし手紙がアンリエッタ王女に直接届けられていたのなら、アルビオン貴族派の謀略を疑ったかもしれない。
密命を見事に果たした王女の幼馴染みを、しかも符丁の様に本人同士でしか知り得ない会話を経由した手紙。
これすら謀略だとしたら、それは既に彼の力量の及ばぬ所だ。考えるだけ無駄である。

取り敢えず、枢機卿は幾つかの手を打った。
まずは、親善として来訪するアルビオン艦隊に対する、隻数制限の打診。
国の体面にも関わるが致し方ない。受け入れ態勢の不備を理由にしておく。
少なくとも、迎えるトリステイン艦隊と同数という形で依頼すれば、相手も表向きは反論出来まい。
また、降下部隊の編成が事実なら、展開出来る場所は限られるはずだ。
おそらくは、接触予定地点の港町ラ・ロシェール近郊の広大な草原か、その近辺。
タルブのアストン伯に密命を下し、有事の際は住民と共に速やかに撤収、港町の守備隊に合流させる。
他、近郊の領主にも儀礼参加の名目で軍を動かせるように準備させた。
空軍の方については。
内部に、どれだけアルビオン寄りの連中が潜り込んでいるか不明な為、大っぴらには対応策を伝達出来ない。
故に、隻数制限が守られなかったらという条件付で、充分な警戒態勢を整えさせるに留めた。

そして、最も重要かつ判断の難しい事。
今回の件が、世間的には有り得ない可能性だとしたら、ゲルマニアへの援軍要請はどうするのか。

「万が一、アルビオンが作戦を取り止めていたら、大変だものね」
「だから、姫殿下が個人的に手紙を出す事にしたんだって」
アルビオン艦隊来訪に不安がっている王女が、皇帝へ私的に出した『お願い』――ゲルマニア艦隊の派遣要請。
トリステイン艦隊と共に不可侵条約の相手を丁重に迎えるというのは、儀礼上無いとは言えない。
「数が少なくても、何隻か出してくれれば儲け物だって言ってたわ」
「確かにね」
(それだけじゃないでしょうけどね)
リンディは内心苦笑した。
ゲルマニアに日和見させない為だろう。前線で被害を受ければ、体面上は傍観者を決め込むのが難しくなる。

「色々と、大変な事が起ころうとしてるのよ」
ベッドに飛び込んだルイズは、行儀悪く寝転がった。
「戦争なんて、やっぱり実感が湧かないわ」
「そうね」
リンディも、同様に腰掛ける。
現実的な判断として。
トリステインに、アルビオンの初撃を食い止めるだけの力があるのか。それは分からない。
それさえ凌げば、補給の観点からも防衛は可能だと思うが――空軍の戦力差は相当大きいようだし。


「ねえ、リンディ」
「なあに?」
「戦争になったらどうするの? 帰る方法は見付かってないのよね?」
「ええ」
「じゃあ――」
「わたしはルイズさんの使い魔でしょう? 最後まで一緒にいるから安心して」
逃げても良いのよ、と続くルイズの言葉は先に制された。
「もし王女様の為に何かしたいと思っているなら、わたしはルイズさんの為に頑張るから」

「……いいの?」
ルイズは、ぽつりと呟いた。
今だって目に浮かぶのだ。あの時のリンディの笑顔が。――あの夜の血塗れの姿が。
正直な話、あんな光景はもう二度と見たくない。
だから。
「わたしが何とかしてあげる。姫殿下もリンディも、学院の皆も。出来るような気がしてるの」
自信を僅かばかり見せながら、真剣な顔で宣言する彼女。
その隣に、リンディも横になった。
「わたしの御主人様だものね」
「……信じてないでしょ?」
ルイズの小さな身体が、ふわりと抱き締められる。
「信じてますよ。だから、抱え込まないでわたしにも分けてね?」
「それはこっちの台詞」
顔を見合わせた二人は、囁くように笑い合う。

暫くして。
覗きに来たキュルケが見たものは、仲睦まじく寄り添う二人の――微笑ましい寝姿だった。


      ◆   ◆   ◆


結局。
事態の流れに、大きな変化は訪れなかった。

対する者が、幾ら美辞麗句を並べても。
如何なる深慮遠謀を築き上げようとも、単純な力の前には手遅れになる。
だからこそ暴虐は成り立ち、対応は事後に行われるのだろう。



その日。
迎賓の為に戦列を組んだトリステイン艦隊の司令は、雲海から降り来たる巨艦を目にしていた。
事前連絡のあった通りの艦だが、いざ眼前にすると――その大きさは圧倒的だ。
後続の戦列艦が、まるで快速船程度に見える位である。

隻数を数えた者から報告が上がる。
こちらの艦隊と同数。要請通りという事だ。
旗艦メルカトールの艦長と顔を見合わせ、微かな笑みを見せた瞬間。

哨戒員の叫び声が、弛緩した艦橋の空気を一気に塗り替えた。

ほぼ同数の別働隊が降下してくる様子が、視認されたのである。
つまり、最初の艦隊が主力部隊、後方の別働隊は揚陸任務を主とした部隊なのだろう。
そう判断した艦隊司令は、僅かばかり迷った。

相手の意図は明らかだ。一方的な条約破棄と、布告無き戦闘開始。
後々、適当な理由を付けた宣戦布告文が王宮に届けられるのかもしれないが、今は考えても意味が無い。
更に言うなら、この事は既に予測の範疇である。
最悪の場合、と念押しはされていたが。

敵は行き足がついているものの、艦首を見せている為に舷側の砲は使えない。
初撃だけなら先手は取れる。こちらの戦列が一斉砲撃を行えば、それなりの戦果は上げられるだろう。
だが、それだけだ。
事前情報によれば、あの巨艦は新型砲を積んでいるという。その上、艦数もこちらの倍なのである。
最終的な敗北は、決定的と言えた。



艦隊司令は、やや頭の固いところはあっても無能とは程遠い。
結論に達した後の行動は素早かった。
旗艦に上げられた旗を確認した各艦は、砲撃を行いながら急速に反転する。
未練がましい抗戦を行う事無く、近隣の町に向けて転進したのである。

町――天然の要害、ラ・ロシェール。

地上陣地と連携出来れば、少なくとも一方的な敗北は避けられる。
相手の戦力は極めて強力な上、こちらの迎撃体制も整っていないが――利が無いわけではない。
それは補給線だ。
如何なる強大な戦力も、撃てる弾や物資が無ければ続かない。
アルビオンは防衛に地の利を生かせるが、攻撃に回った時はそれが弱点となる。
橋頭堡を築けたとしても、補給ラインを維持する事が極めて難しいからだ。
浮遊大陸は常に動いている。距離という重要な運搬リスクが固定出来ないのである。

故に、トリステイン空軍は、正面決戦を出来る限り避けねばならない。
逃走するのではなく、敵の戦力を削りながら戦線を維持する。
保障占領などという事態を招くわけにはいかない。
その上で、来るべき通商破壊戦の為に戦力を維持し、持久戦に持ち込む条件を確保する必要があったのだ。


      ◆   ◆   ◆


学院に急報がもたらされたのは、翌日の事である。
王宮は緊急対応で忙しく、連絡の指示が後回しにされたのは、仕方のない事と言えた。



「どうぞ」
「ふむ、すまんの」
注がれたお茶を、オスマンは無造作に飲んでいる。
学院長室には、彼とミス・ヴァリエールの使い魔のみ。秘書のロングビルには席を外させた。
差し入れを持ってきた者の意味有りげな視線に気付き、人払いを行ったのである。

「つまらん服じゃのう。美人なんじゃから、もっと色気のある格好は出来んのかね?」
お茶菓子を摘みながら、オスマンは不機嫌そうに言う。
「あら、これでは駄目なんですか?」
「悪くはないが」
バリアジャケットとやらは、肌の露出が少な過ぎてつまらない。
自分の望むのは、もっと、こう――

不満そうな彼の様子に、使い魔はにこりと微笑んだ。
「わかりました。では」
そう言うと、一瞬の光と共に服が変わる。
どこにでもありそうなブラウスと、やや長めのスカート。
ゆったりとした服装だが、それでも均整のとれた体格が良く分かった。
かなりの細身なのに、出る所が十二分に出ているわけで。

「よかろ」
オスマンは満足そうに頷いた。
――後は、もう一つ確認する必要がある。
「それで、何の用じゃな?」
「少しばかり抗議をしに来ました。身内の事で」
「ほう、身内とな。……それは、あのメイドの事かな?」
「察しが良くて助かります」
使い魔は薄く笑った。微笑んでいるのは間違い無いが――何とまあ怖ろしい笑顔か。
もっとも、この程度で動じる彼ではない。
と言うより、今の彼は別の事に集中していた。……後もう少し。

「彼女の危険を見過ごしたのは、何故なんですか?」
「仕方なかろ? そこまでとは思わなかったんじゃから」
素知らぬ振りを続ける事に専念する。
「恩人の彼は、少々変わった所があるにせよメイジじゃった。杖を持っておったしな」
「そうですね」
「話も少しばかり大袈裟じゃったし、そもそも、あれを使いたい人間に渡すのは約束じゃったからの」
「それが何の力も無い、平民の女の子でも?」
彼女が小首を傾げた瞬間。

「む」
オスマンは顔を引きつらせた。
足下に近付き、もう少しでスカートを覗こうとしていた彼の使い魔が、不思議な物体に閉じ込められたのだ。
ガラスの様な透明な物で作られた正四面体。鼠を捕らえるには、丁度良い大きさである。
魔法かもしれない。
が、目の前の女性は指一つ動かしていなかった。
「な、なんじゃそれは」
「クリスタルケージと言いましてね。まあ、檻みたいな物です」
「先住魔法か」
露骨に舌打ちする彼を、にこにこと眺めていた彼女は――やがて笑みを消した。
「そろそろ、本題に入っても?」
「わかったわかった」
オスマンは諸手を上げて降参した。

「――元々お前さんも悪い。聞いた話なら苦しそうにしとるはずだし、もっと先の予定じゃったからな」
「杖も持ってませんでしたしね」
「そうじゃ。挙げ句にフライパンでは、あれと直接結び付けるには無理があるじゃろ?」
まあ確かに。
召喚時には不思議な光羽を展開し、杖を持たず、マジックアイテムを所有している先住種族。
オスマンが出会った彼とは、共通点が少な過ぎる。
しかし。
「それでも、渡すように要求された時点で気付いたのでは?」
「確かにそうじゃな。相手は予想出来たしの。だが、あのメイドは助けを求めんかった」
意味を知っているなら充分だ。
それに第一、彼は詳細な事情を聞く事自体を、不可としたのだから。
「ならば聞く必要もあるまいて。まあ結果的に、お前さんの力を過小評価しとったのは否定せんよ」
「それなら、仕方ないかもしれませんね」
視線を和らげたリンディは、ティーセットに手を掛ける。
「もしかすると――」
ゆっくりと自分の分に注ぎながら、

「本当は、過大評価されていたのかと思いました」
と、彼女は楽しそうに微笑んだ。

学院に潜り込んだ先住種族。
以前聞いた話と関わりがあるか分からないが、どちらにせよ強大な力を持っているのは事実だ。
上限も詳細も読めないそれは、本来触れてはならぬ物ではないのか。
――そう思われていたのなら。
「学院の教師や生徒たちに、余計な被害を出したくないと判断したのかなって」
つまり、分かっていながら見殺しにしたという事だ。
無難な判断だが、冷酷とも言える。

「ふむ。ならば、こちらも聞いてみたいんじゃが」
表情一つ変えず、オスマンは顎髭を撫でた。
彼が視線を向けたのは、彼女の左掌に刻まれた見知らぬ文字。
「その使い魔のルーンな――それ、嘘じゃろ?」
「はい?」
「最初はそんな物は無かったしの。後から浮かんだというなら、お前さんはそこから『使い魔』を始めた事になる」
つまり彼女は、ミス・ヴァリエールとの契約で縛られた使い魔ではない。
『使い魔』を演じているだけなのではないか。

「召喚儀式でお前さんが何をしたかは知らん。どんな魔法を使ったのかもな。一つだけ気になるのは」
人と使い魔の契約。
単純な約束事ではなく、存在同士の様々な意味での繋がりを構築する物だ。
その上で、果たして契約対象となる『存在』自体を、別種の物に転嫁する事は可能なのか。
しかも、その対象が厳密な意味での生物ではなかったら?
例えば。
「祝福でも呪詛でも、対象は人やら物やら千差万別じゃ。あるいは場所――伝統ある存在そのものにもな」
異世界の魔法が干渉した結果。
故意か偶然かは不明だが、個を対象とした契約が、縁深き場という『定義』に転嫁されたとしたら。
おそらく、その対象は。



「どうじゃな?」
「さあ? こちらの魔法には詳しくないですから」
リンディは肩を竦めた。
「どちらにしても、わたしがルイズさんの使い魔なのは事実です」
「ま、そういう事なら、こちらの配慮が足りなかった事は詫びておこうかの」
お代わり、と差し出されたカップに、リンディは冷え始めた茶を注ぐ。
「でも、今の話が本当だとしたら、彼女が『一人』になる事は有り得ない――そういう事でしょうか?」
「関係無いじゃろ。お前さん一人で充分じゃ」
「そう、ですね」
微笑んだリンディの瞳が、僅かに揺れた。

予想外の反応に、オスマンが訝しげに眉を顰めた時。
大きな音を立てて、学院長室の扉が開かれた。
立っていたのは、案内をしてきたロングビルと――開戦の報を告げる、王宮からの使者である。










テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

夏色四片 第31話 空色硯 sorairo-suzuri/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる