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zoom RSS 夏色四片 第06話

<<   作成日時 : 2007/10/03 00:06   >>

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「ば、場所はヴェストリの広場だ! ……と言うよりも、君は決闘の意味を本当に分かっているんだろうね?」
「分かってますよ」
「ほ、本当に本当だろうね?」
「当たり前じゃないですか。平民でも、言葉の意味くらいは知ってますよ?」
こくん、と首を傾げる仕草は微笑ましい。
だが、言ってる事は的外れもいいところである。
「そういう意味じゃないだろう!」
「わあ、凄い迫力ですね」
半ばヤケクソ気味に怒鳴るギーシュに、緊迫感の欠片も無い声が賞賛を送った。
気の抜けきった声が、とにかく脱力感を誘う。
「…………君は、本当に人の話を」
「それでは、武器を用意して参ります。後から追い付きますので、少々お待ち下さいねー」
そう言って微笑んだリンディは、ひらひらと手を振った。
実に楽しそうな笑顔だ。意味が分かってるとは到底思えない。

彼はがくりと肩を落とした。

「平民は愚かだと思っていたが、まさかここまで愚かだとは思わなかったよ。……まあいい。とにかく、僕は先に行ってるよ」
疲れた足取りで歩き出すと、同時に席を立った友人が何やら耳打ちする。
「本当かい?」
立ち止まり、眉を顰めて辺りを見渡した。
そこかしこから、あの平民はルイズの使い魔だろ、だから考えがゼロなのか、などと声が上がっているので、ルイズを捜したのかもしれない。
もっとも、結局見付けられなかったようだ。
周囲で噂をしていた学生たちは、見物の為か既に移動を始めている。



「ちょ、ちょっとリンディ! あんた何考えてんのよ?」
人混みを強引に掻き分け、ルイズは自分の使い魔に走り寄った。
ギーシュが平民と決闘すると聞いて、色々と怖い想像をしてしまったわけだが――まさか最悪の物が当たるとは思っていなかったのだ。
聞いた瞬間、飲んでいたお茶を盛大に噴き出してしまったのは内緒である。

「あら、ルイズさん」
そのリンディは、先程まで運んでいたトレイを平然と片付けていた。
「ヴェストリの広場ってどこかしら?」
「中庭よ、西の方の。――って、そうじゃないでしょ!」
顔を近付け、小声で話しかける。
「何だって決闘なんて事になったのよ?」
「そうねえ。あれくらいの子って見栄っ張りでしょ? 一生懸命背伸びしてるトコが、なんか可愛くって」
ついからかい過ぎちゃった、と照れるリンディに、ルイズは大きく溜息を吐いた。
マイペースな事は理解していたが、これは幾らなんでも予想外だ。

第一、決闘するという事は、魔法を使わなければならないという事でもある。
彼女の光る羽は消えたままだ。
この状態で、先住魔法を使えるのだろうか?

不安そうな色を見て取ったのか、リンディは穏やかに微笑んだ。
「心配しないで。何とかするから」
「……あんたね」
撫でるように頭に置かれた彼女の手を、ルイズは少し強めに振り払った。子ども扱いされてるみたいで嫌なのだ。
「目立ちたくないって言ってなかった? みんなの前で先住魔法でも使うつもり?」
「魔法って?」
意外そうなリンディの様子に、ルイズは戸惑った。
「まさか、貴族の決闘がどういう意味か知らないの?」
「いいえ。さっき教えてもらったわ」
「だったら」
「でも、わたしは『平民』なのよ? 魔法なんて使えるわけないじゃない」
「は?」
平然と言われた内容に絶句する。
「だ、だってギーシュはメイジよ! 魔法を使わないで勝てるわけないでしょ!?」
「武器の使用は許可してくれたもの。何とかなるんじゃない?」
指を立て、楽しげにくるくる回す。
そのまま彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべると、ルイズの額に、トンと触れた。

「大丈夫よ。わたしは、もうちょっとしたら行くから――先に行って待っててね」


      ◆   ◆   ◆


「ルイズ、君は使い魔の教育がなってない。もう少し、どうにかならないのかい?」
「ダメ。ならない」
困惑気味のギーシュを、ルイズは不貞腐れたように睨み付ける。
「わたしだって、何考えてんだか分からないもの」
「しかしだね」
彼は周囲を見回した。
ヴェストリの広場は、見物しようと集まった学生達で鈴なりになっている。今更中止とは、自分の方からは言い出しにくい。
そもそも、決闘を申し込んだのがどちらなのか、あやふやなのだ。
確かに結論付けたのは相手だが、話を振ったのは自分である。
申し込みを受けたと取られているなら、逃げるわけにはいかないのだ。
とは言え。
彼には、非力な平民――しかも妙齢の女性をいたぶる趣味は無かった。
「一言謝れば、許してあげないこともないのだがね」
「直接言ってみたら?」
譲歩してみせたが、またも素っ気無い返事が返ってくる。
どうやら、ルイズ自身が使い魔に対して拗ねているらしい。
(言っても無駄のようだね)
結局彼は、主人による使い魔の説得を、諦めるしかなかった。



暫くすると、ざわめきと共に人垣の一角が割れて、二つの人影が姿を現した。
先に立つのは先程の使い魔だ。改めて見れば、随分と変な格好をしている。ある意味、変わった言動には相応かもしれない。
その後ろはメイドの少女。顔色は真っ青で、何故かティーセットと敷物を抱えていた。
(ティーセット?)
場違いな物に違和感を覚えたのは、ルイズも同じらしい。自分と似たような表情を浮かべている。
そして。

「お待たせしましたー」
にこにこと笑みを浮かべた使い魔は、手にした真っ赤な『フライパン』を振ってみせた。



沈黙した一同の前で、リンディは受け取った敷物を広げた。大きめの小石は丁寧に除ける。
その上にティーセットを置くと、怯えた表情のシエスタに「大丈夫よ」と一声かけて下がらせた。
「き、君」
立ち直ったのか、ようやくギーシュが口を開く。
「それは何のつもりだい?」
「もちろん、決闘の準備ですよ?」
「そ、それがかい?」
どう見たって、ティータイムの準備を整えているようにしか見えない。
「いいい、一体、君は何を聞いていたんだ? 僕は決闘だと言ったんだぞ?」
「そうですよ?」
心底不思議そうな彼女の様子に、ギーシュは二の句を告げられなかった。

ぱくぱくと口を開け閉めした後、ふっと自嘲する。
「平民に言葉を理解させるのが、こんなに難しいとは知らなかったよ。じゃあ、これならどうだい?」
手にした薔薇を振ると、花びらが一つ地面に落ち――瞬く間にゴーレムが出現した。
甲冑を着た女性を模している。
「僕はメイジだ。『青銅のギーシュ』の二つ名を持っていてね。そしてこのワルキューレが、君の相手をするんだよ?」
どれだけ愚かでも、ここまでしてやって状況が理解出来ないはずはない。
そう確信して使い魔を見れば、何故か彼女は――頭痛をこらえるように額を押さえていた。
「す、少しだけ、お待ちいただいてもよろしいですか?」
「ああ。主人と相談でも何でもしてくるがいい」
ようやく理解出来たらしい相手に、ギーシュは鷹揚に頷いた。

「ル、ルイズさん」
「何よ、今更怖気づいたの?」
引きつった顔のリンディに、ルイズは呆れたような顔を向けた。
「あの子の持っている薔薇って」
「あれはギーシュの杖よ。造花なの」
「もの凄く重かったりする?」
「そんなわけないじゃない。そりゃあ、本物よりは重いだろうけど」
何を当たり前のことを、とルイズが言うと、リンディはこめかみを指で押さえた。
「何ていうか、その。造花の花びらが、ああなったんですけど」
「まあ、ギーシュは土の系統だからね。ゴーレムが作れるのは当たり前よ。授業でも得意そうにしてたから」
「当たり前……」
「それがどうかしたの?」
「な、何でもないわ。ありがと」



ふらふらとした足取りで戻ってきた使い魔は、暫くぶつぶつと呟いた後――気合を入れ直すように向き直った。
「勝負はどうしたら決着がつくんですか? 時間制限でもあるのでしょうか?」
「杖を落とした方が負けだが……って、君はまだ分からないのかい?」
ギーシュは目を剥いた。
慌ててルイズの方に視線を向けると、彼女は呆れたように肩を竦めた。説得は無駄だったということだろうか?
「時間制限は無さそうですね。でも困りました。わたしは杖を持っていません」
「き、君が謝れば済む話なんだが」
一応、再度忠告するが……果てしなく無駄な気がする。
肩に降り積もる徒労感。

それよりも、先程からどうしても気になっていた事があるのだ。
「第一、それは何だい?」
と、フライパンを指差した。
どこからどう見ても、ただの調理道具だ。その鮮やかな赤は、この場で最も浮いていた。
「まさか、それが君の武器ってことはないだろうね?」
「ええ。だってこれ」
彼女はそれを指差して、聞き捨てならない事を口にする。
「――マジックアイテムなんですもの」

「何だって?」
ざわっ、と周囲がどよめいた。
使い魔がこれだけ自信を持っているのだ。もしかすると、とんでもない力を持っているのかもしれない。
「それは、一体どういう――」
緊張を浮かべたギーシュの質問と同時に、
「なんとこれは、油を使わなくても焦げ付かないんです!」
能天気なリンディの声が響き渡った。



耳に痛い程の沈黙。

「……ちょっと、ルイズ。あなたの使い魔って大丈夫?」
「聞かないで」
いつの間にか隣に立っていたキュルケに聞かれ、ルイズが力無く首を振るのが見える。

「ですから、このフライパンは『焦がさない』効果があるんです。先祖代々伝わる家宝で、ご家庭での最高の武器なんですよ」
「き、き、き」
「わたしの愛用品でもありますし、使ってもいいですよね?」
「き、君は」
「いいですよね?」
「ああ、構わないさ! そんな事より、君は僕を侮辱しているのかね? 侮辱しているね!?」
「いいええ」
体を震わせて怒鳴り散らすギーシュに、リンディはにっこりと微笑みかける。
「じゃあ、始めましょう。いつでもいいですよ?」
「――――っ!!!」
とん、と彼女がフライパンの柄を地面に突き立てた瞬間。

頭に血が上ったギーシュが薔薇を振り、彼のゴーレムは動き出した。


      ◆   ◆   ◆


「……あなた、これ、知ってたの?」
「し、知ってたわよ」
「ふーん。そうよねえ。自分の使い魔だものね」
全く信じていない口調で、キュルケはルイズの表情を窺った。
そこに自分と同様、驚愕の色が張り付いているのを確認すると、改めて前方に向き直る。
「どこから、あんな物持ってきたんでしょうね?」
彼女は呟くように口にした。答えを期待しない問いであることを自覚して。
無論――ルイズからの返事は無かった。



「くそ、どうなってるんだ」
ギーシュは最後の花びらを撒いた。
七つめ。自分が操れるワルキューレの最大数であり、この場に全て揃ったことになる。
その七体のワルキューレは、今や同じ青銅製の剣を振るい、体当たりを続け、あるいは地面を穿っている。
だが、その結果は。
「一体、あれは何なんだ」
後悔と共に吐き捨てる。
使用することを許可してしまったのは自分だ。今更文句は言えないかもしれないが、まさかあんな物だとは思ってなかった。

まるで歯が立たない。

目標までたった2メイル。その2メイルがひたすら遠い。
淡く緑色に輝く半球体。一切の隙が無く、ワルキューレがどの方向から打撃を加えても、壊れる気配すら無い。
境界線の地面を穿ってみたが、壁が地下にまで続いていることが確認出来ただけ。
額の汗を拭いた。
自分がこれだけ苦労しているのに、中に座る女は涼しい顔をしているのだ。
理不尽なことに対する、怒りと戸惑い。
それ等を噛み締めた彼は、この状況に至った経緯を思い返していた。



最初に歩き出したゴーレムがリンディに近付いた時。
突然、辺りは緑色の光に包まれたのである。
「わっ?」
一瞬目を閉じたギーシュは、周囲から溢れる驚愕の叫びを聞いて目を開けた。
前方では彼のワルキューレが、あの使い魔と向き合っている。
(向き合ってる?)
前進し、あの無礼な使い魔を捕まえるように命じたはずなのに。何故足を止めているのだろう?
視線を下げた彼は、ようやく『それ』気付いた。

「な、何なんだそれは!?」
「言ったじゃないですか」
リンディは楽しそうに笑いかける。
彼女を中心とした地面に、煌々と光る半径2メイル程の円盤が回転していた。
そこには複雑な模様、いや、見たこともない文字が描かれている。更にその上には、淡い光が半球体を構成していた。

理解し難いことだが。
極めて薄い膜状のそれが、重いゴーレムの前進を食い止めたという事になるのだろう。
だとすると、それは光ではなく壁だ。
「このフライパンは『焦がさない』力があります。だから、こうやって使えば中の物を守ってくれるんです。火事でも平気なんですよ」
「バカな……それじゃ」
彼女は、難攻不落の城壁で完全に覆われていることになる。
「そ、そんな物、今まで聞いたことないぞ?」
「門外不出でしたから。世の中には、色々不思議な物があるんですねえ」
呆然とするギーシュに軽く会釈すると、リンディは腰を下ろし――

「では、頑張ってくださいね?」
お茶の用意をしながら、済ました顔でそう告げた。


      ◆   ◆   ◆


リンディが、やや強引な手段で決闘に持ち込んだ目的は、三つある。

一つめは、自分が魔法を使える状況を作り出すこと。
貴族以外で、しかも杖を使わずに行使される魔法は、ほぼ全てが先住魔法として恐れられている。
当然ながら自分の魔法も含まれる。使用すれば注目を浴びるだろう。
その状況下で学院に留まれる可能性は低いだろうし、ルイズにどのような迷惑が掛かるかも予想できない。
だが、最低限の防御魔法すら使用不可となると、不測の事態に対処出来ないのだ。
公には魔法を行使出来ない。では、貴族以外で、魔法に関わる存在は他に無いのだろうか?
それがマジックアイテムだった。
昨日のシエスタや、今朝のルイズ、厨房でのマルトーたちの反応を見て確信する。
様々な種類があるらしい『それ』なら、少々不可思議な現象を作り出しても許容されるはず。
つまり。
マジックアイテムを所持している限り、所有者であるリンディの魔法行使に理由がつけられるのである。

二つめは、周囲の注目を逸らすこと。
一つめに付随することでもある。
マジックアイテムの能力が不可解であればあるほど、所有者に対する注目度が、そちらへ移る。
自分が探知魔法の対象になる可能性も、格段に減るだろう。
その代わり、フライパンは注目の的になるわけだが、どれだけ探知しようとフライパンはフライパンである。
これが、この世界にある何の変哲も無い調理器具なら、疑われる可能性もあるかもしれない。
しかし――テフロン加工されたフライパンは『油を使わなくても何故か焦げない』という、目に見える形の不可解さを持っている。
解明したい者の意欲をそそるはずであり、解明されない限り注目から外れることも無い。
さらに。
これを公で披露することで、自分は変なマジックアイテムを所有していると知れ渡った。
自身が改めて探知魔法の対象になった時。
バリアジャケットもマジックアイテムの一種だと、誤解させる事が容易くなる。

そして三つめ。
この世界における魔法行使を、至近で観察することだ。
決闘ということは、攻撃性の高い魔法が行使される。場合によっては殺傷を目的とする程の。
それでも、学生が行使するのであれば危険性はかなり低いはず。
無論、決闘が命懸けの場合は話が別だ。威力がこちらの想定以上という可能性もあった。
だとしても、それに対応出来ないようなら、自分がこの世界では無力だという証明になる。
少々結果が早まるだけの事で、どのみち長くは生きられまい。

いずれにせよ、今後の指針を明確にする為には、絶好の機会だったのである。

まあ、どんな理由があるにしても。
出しにされたギーシュにとっては、災難でしかなかったが。


      ◆   ◆   ◆


(申し訳ないとは思うんだけどね)
茶菓子を摘み上げたリンディは、困ったように苦笑した。
こういう事ばかり上手くなるのは、世間の荒波が厳しいからで。
そもそも権謀術数渦巻く職場がいけないのだ。自分の周りなんて、一癖も二癖もある連中ばっかり。
腹の探り合いは日常茶飯事。しかも善意でやる人までいるから始末に負えない。

ふんわり焼かれたクッキーを味わう。
もう少し甘い方が好みだが、美味しさは充分。
(大体ねー。こんなに素直な女なんて滅多にいないのに。虐めようとする人が多過ぎるのよねえ)
などと愚痴を呟きながら、彼女はのんびりとお茶を啜っていた。



ちなみに。
防御結界の外では、既にかなりの時間が過ぎている。
「こんな物、聞いたことがあるかね?」
「いえ、ありません。オールド・オスマン」
本塔の頂上。
学院長室の大鏡の前で、二人の人物が首をひねっていた。
「わしも知らん。見たところ、どうにか出来るとは思えんの」
「確かに。そうしますと、このままでは」
「このままじゃな」
片方の老人――学院長であるオスマンは、先程からまるで変化のない状況に飽き始めていた。

映し出されているのは、中庭で行われている決闘の様子である。

飛び込んできたコルベールに話を聞いたオスマンは、秘書のミス・ロングビルを退出させた。
場合によっては、他言出来ないような対処を考えねばならないからだ。
荒事になるとも思いにくいが、事態を隠蔽する必要が生じるかもしれない。その場合、あの使い魔が協力してくれるかどうか。
そういった緊張感と共に、映像を注視していたわけだが。

「つまらん。もう少し面白くなると思ったんじゃが」
この通り、極めて退屈な光景が続いている。見物人も十人以下に減ったようだ。
「ミセス・ハラオウンは、先住魔法の使用を自重して下さったようですね」
「いらんじゃろ。あんな便利な物持っとるんじゃから。それにな」
肩を撫で下ろしたコルベールに、彼は呆れたように言った。
「注意しておかねばならんことには、変わりないからの」




「いや、凄いもんだね」
広場の片隅にいたマルトーは、驚きに目を丸くした。
さっき見たフライパンに、あんな力まであるとは思ってなかったのだ。

仕込みの合間、息抜きに外へ出てみると、例のフライパンがそこら中の噂になっていた。
普段であれば貴族同士の揉め事には一切関わらないが、こんな噂なら話は別だ。
一目見ようと中庭に向かい、先客と並んで見物していたのである。
未だに続いている決闘?とやらを遠目に見ながら、マルトーは感心するように頷いた。
「平民にだって、何とか出来ることもあるんだな」

先客――隣に立つシエスタに話しかける。

「最初に聞いた時にゃ、酷い話だと思ったんだよ。使い魔っていやあ、死ぬまで貴族と一緒にいるんだろ」
給金も無いし、里帰りも出来ない。
しかも故郷には家族を残しているのだ。
食いっぱぐれは無いかもしれないが、ある意味、平民以下ではないか。

ただ、希望は有るかもしれない。
「まあ、あんな物持ってるってんなら、いつか家族の元に戻れるかもな」
「違います」
俯いていた彼女が、ぽつりと呟いた。
冷たく、僅かに震える声で。
「お、おい、どうしたんだ?」
狼狽するマルトーの横で、シエスタは涙に濡れた顔を上げた。
真っ青な唇が紡いだのは、たった一言。

「――――あれは、ただのフライパンです」










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