空色硯 sorairo-suzuri

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<<   作成日時 : 2009/05/17 23:53   >>

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「ではシャーリーさん。また後で」
『はーい。それではまた夜に……って、またか』
「またみたいですね。スバルに、訓練がんばってって伝えてください」

『死にたくなきゃ頑張ると思うよー』



「さて、と」

六課より少々離れた、海上の隔離施設。
通信を終えたギンガは、ミーティングルームを埋めた面々に、くるりと向き直った。
少しばかり騒がしいのは、空間モニタが閉じる直前――桃色の光が部屋を染め上げたからかもしれない。

でもまあ、見慣れた者にとっては今更なので。

「はい、気にしない気にしなーい」

ぱん、と手を打ち鳴らした彼女に、再び視線が集まった。
多少気になるにしても、今はこっちの方が先決かつ重要だ。

「それじゃ、いいかな。……ディエチも大丈夫?」
「だ、大丈夫」

最後まで首を傾げていた一人も、慌てて前を向いた。
彼女の場合は、今の魔力光に心当たりがあったから仕方がない。実体験は百聞に勝ると言うし。

しかし。

「あたしも見習おう、とか考えてたでしょ? それはどうかなぁ」
「な、何でわかるの!?」

「おまえは生真面目だからな。顔に出やすい」

指摘されて慌てる声に、チンクの苦笑が重なった。
姉として、素直すぎる妹の将来が気になったのだ。いかに優れていようが、倣ってはならぬ事もある。
まあ、あれの威力『だけ』は認めるべきだろうか。

どんなことだって、でっかい方が良いに決まってる。

「どちらにせよ、話は後にしよう」

とにかく前方の大型スクリーンに専念したい彼女は、妹たちに改めて注目を促した。
週に一度しかない希少な機会は、最大限に生かさねばなるまい。

「ギンガ、そろそろ始めてくれ」
「はーい。それじゃ、最初の一本はみんなで見て、後はグループに分かれて鑑賞ね」

「了解ー」

部屋のあちこちから、楽しそうな返事が返ってくる。



更生プログラムの一環として、定期的に設けられた映画鑑賞会。
本日は、その十回目である。


      ◆   ◆   ◆


じゃば、ぽん。
じゃば、ぽん。


「なにこれ?」

シャーリーは、不可解そうに眉を顰めた。

何かが這いずったような濡れた跡が、廊下に長々と残っている。
点々と落ちている黒っぽいものは……おそらく海草ではなかろうか。


じゃば、ぽん。


「掃除が大変そう」

肩を竦めると、彼女は少しだけ足を速めた。
水ならともかく、海水はダメだろう。っつーか、とっとと着替えりゃいいのに。
――などと内心で愚痴りながら、


じゃば、ぽん。
じゃば、ぽ――


「てい」
「きゃん!?」

ふらふらと歩く相手を、彼女は無造作に蹴り倒した。




「……なにするの?」
「それはこっちが聞きたいですね」

涙目で見上げてくるフェイトを、彼女は冷ややかな眼差しで見下ろした。

あれこれ言いたいことはあったが、最初に頭に浮かんだのは見た目について。
好きなのはわかるが、黒ジャージに黒長靴ってのはどうかと思う。
いくら勤務時間外だとしても、ここまで黒一色というのは――もう少し、どうにかならないものか。

「夜勤明けで、部屋に寝に戻ったはずですよね?」
「うん。それがね、みんなの訓練に誘われちゃって……ちょっとだけ参加してきたんだ」

えへへ、と緊張感無く笑う執務官。

「海に落ちちゃって、エリオとキャロに助けてもらったんだけど」
「けど?」
「私を入り口に放り出したあと、さっさとお出かけしちゃった。なにか急ぎの用事でも、あったんじゃないかなぁ」
「お出かけ……」
「もしかして、デートかも」
「はあ」

もしかしないでもそうだろうが、上司のフェイトが気にしないなら放っておく。

とりあえず。

びしょ濡れのまま、廊下にぺたんと座り込んだ彼女を眺めた。
濡れた髪と黒ずくめな格好のせいで、どこかで見た怪生物のようである。色気なんてカケラも無い。
この人は、気を許せる環境だと徹底的にゆるむのだ。
せめて任務時の百分の一でも、普段から気を張ってくれればいいのに。

と、何か言いたくなるが、一度だけ我慢してみる。

「それで、寝る前にシャワー浴びようかなって思ったの」
「それは結構なことですけど、長靴の中の海水くらいは、外で流していただきたかったですね」
「なんで? ……あー、廊下がびしょびしょになっちゃったね」
「なっちゃったって」
「大丈夫、寝る前に拭いておくから。うーん、乾くまで外にいればよかったかなー」
「…………」

干物じゃあるまいし。

やっぱり、我慢は一度で充分らしい。
表情を消した彼女は、フェイトの背後を何気なく指さした。

「あ、なのはさんが」
「え!?」

込められた『怒ってる』というニュアンスに、慌てて振り向いた相手を。



「てい」
「きゃんっ!?」

シャーリーはもう一度、いつもの二倍増しで蹴り倒した。










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